読んだやつ『春にして君を離れ』
春にして君を離れ
先日Google検索で「小説 タイトル かっこいい」でググり、ひっかかったページを流し見していて気付いた。
アガサ・クリスティーの作品タイトル、カッコイイ…
アガサ・クリスティーと言えば推理小説作家のイメージが強い。
犯人探しだのトリック解明だの、脳味噌を働かせる読書とは縁遠いところで生きてきた為、推理小説作家というだけで敬遠してきたのだが
この作品、元はアガサ・クリスティーではなく「メアリ・ウェストマコット」名義。推理小説のジャンルではない、多分。
ネタバレすると、殺人は起きない。
かわりに心は殺される。(諸説ある)
優しい旦那、可愛い子供、理想的な家庭で完璧な妻/母親として生活を営む主人公、ジェーンの一人語りで話は進む。
進む、といっても大したことはおこらない。病気をした娘の見舞いの為に訪れたバグダッドを発った彼女が、イギリスの自宅にたどり着く、ただそれだけ。
旅は滞りなく進むわけではないものの、突然人が死ぬ!といった大きなイベントは一切起きない。ほんとに。
だがしかし、読み出し1/5で胸が詰まり、半分越えたあたりで心が砕けかけ、藁にすがる思いで駆け抜けた最後の最後のクロスカウンターで、情緒は無事にご臨終した。
常にしんどい、そして怖い。
つまらないわけではなく、むしろどんどん引き込まれていくが、読めば読むほどに背筋が凍っていく。
主人公の語りが、心の柔い部分をえぐりまくる。共感性羞恥、そんな言葉があったな、そう、多分そんな感じの…
何がどのように怖いのか詳しく説明しても良いのだが、それを知ってしまったら、初見で読んだときのしんどさが減るだろう。それはフェアじゃない。
興味を持った人間、読んで皆自分と同じ酷い目に合ってほしい、という私怨もあって、記事としてしたためているのだ、フェアに苦しんでほしい。
人間は…なんて残酷な生き物なんだ……(クソデカ主語
しんどい…だが、この読後感…嗚呼…と声が漏れるこの感覚…
きっとこの感覚を「エモい」とヒトは名付けるのだろう…エモ…
めちゃくちゃに人を選ぶ作品だと思われる。特に「そういう」家庭環境に覚えがあると、キツくなる描写が多々ある。
誰かがこの作品を読み、筆者と共に苦しんで欲しいとは思っているが、病んで欲しいわけではない。情緒には死んでほしいと思ってる。
筆者はこの作品が色々な部位に刺さってしまい、心の傷癒えぬまま、続けざまに同作者の作品を2冊衝動買いした。『終わりなき夜に生まれつく』『愛の重さ』の2冊だ。
たった3冊読んだ程度で作者の批評なんぞできやしない。
だが、少なくともこの3冊のアガサ・クリスティのジャンルは「闇のオタク」
絶対に、光ではない、絶対に。新たに出来た傷から噴き出す血に塗れたこの手で力いっぱい「闇のオタク認定判子」を押してやる。
しんどい、だが嫌いではない、いや、好きだ。